再登校事例

集団リンチによる不登校 女子中学生ESさん Vol.2

先に記憶除去すべきは主犯格(1回目カウンセリング)

電話相談から10日後、スケジュールをこじ開けて1回目のカウンセリングです。ご両親が付き添っていらっしゃいました。よく来ることができたな、と感心します。
 
みなさん表情が暗い。特にESさんの目の下にはヒグマが。というほどの見たこともない巨大なクマです。しかしファッションセンスがよく、元気だった頃はさぞかし可愛かったろう、と想像させます。
 
あの日の記憶を思い出すのは苦しいだろう、しかし私はあえて傷口を開きます。ESさんも覚悟はできていたようです。
 
まず背景から。
 
もともとリンチのメンバーとESさんは仲間でした。あまり良くないのと友達なんだな、とお母さんは心配していたそうです。
 
一方ESさんは、KN君という男の子と付き合っていました。
しばらく付き合って別れたのですが、KN君はその後メンバーの一人YK(高校生)と付き合います。
しかしそれを知らなかったESさんは、YKとKN君が付き合いだしてからもちょくちょくKN君と会っていました。
 
YKのことを知ったESさんは会うのをやめましたが、KN君にはまだ思いがあったESさんはブログにKN君のことを書き、それを見たYKは激怒。
 
これとは別に、YKの先輩にAZ君という男の子がいるのですが、モーションをかけてくるAZ君がESさんは嫌いで、そのこともブログに書いたらこれもYKの目に触れ、怒りを誘いました。そして集団リンチへ。
 
リンチメンバーは6人。
高校生・・・YK、EK。
中学生・・・AM、MZ。この2人は他校生。MK、YMが同じ中学。MKは元親友、つまり裏切り者。
 
積極的に暴行を加えたのはYK、EK、AMの3人。他はどちらかというと見ていただけ。
 
処刑当日。
朝5時にYKからメールが来ました。「起きてる?」もちろんESさんは眠り姫。
姫の眠りを覚ましたのは、悪魔のくちづけでした。
 
気づいたESさんが「ねてました」と返信したら、YKとEKから電話が来て色々言われた後、「午前10時にカラオケボックスKYに来い」と命令されました。
 
明らかに危険を感じましたが、断ると後で何をされるかわかりません。ESさんは10時に指定されたカラオケボックスに行ってしまったのです。
 
その時いたのはYK、EK、AM、MZの4人。まずカラオケボックスの前でKN君のことを話した後、中に連れてゆかれました。そして本格的なリンチが始まったのです。
 
もうグチャグチャになっている時に部屋に入ってきたのはMKとYM。その時のESさんのショックはどれほどだったのか。
 
カラオケボックスに入ってから2時間半後、YKはAZ君に連絡を入れ、「今から謝りに行かせるから」と全員でカラオケボックスを後にしました。
 
ESさん、MZ、YMは自転車、残り4人はタクシーでAZ君のところに向かったのですが、ESさんは「殺される、逃げるなら今しかない」とわざとゆっくり漕ぎ、自転車組から離れたスキにコンビニへ逃げ込みトイレで息を潜め、お母さんに電話をかけ、救出してもらいました。
 
事情をきいたご両親は当日の夜、ESさんを連れ、AZ君の家へ謝りに行きました。
ESさんは車から降りれず、ご両親だけ。
ところがAZ君は事情を知らず、「あ、そうだったんですか」と。
 
つまりYKとEKの暴走だったのです。
 
お母さんはなぜこんなことが起きたのか知りたかったので、MKに電話しEKにつないでもらいました。そこでKN君との男女間の問題の存在がわかったのです。
 
それ以外にも、ESさんは背も高く成績優秀(5教科オール5)、ファッションと容姿で目立つのでシメられた、という面もあったそうです。
 
EKは「YKも傷ついているんです。YKがKN君と別れたこと、ESさんがKN君と会ってないとウソをついたこと、そっとしておいて下さい」と言い、お母さんは引き下がりました。
 
翌日から、自分の部屋から出ず、食事もほとんど摂らなくなってしまいました。心配した別の友達が家に来てくれましたが、その子とも会いたくなく、帰ってもらいました。
 
夏休みが終わり、実は1日登校しました。早めに行けばMKに会わないので、仲の良いMDさんと一緒に行くことに。
しかしMDさんはMKとも仲が良いので、2人が話していると気まずく、「自分がいると2人を気まずくさせているんじゃないか」と思い始めました。
 
そして翌日朝、ヒマでMKのブログを見ていたら、ESさんの悪口が。
その後学校へは行っていません。ケータイにも触っていません。今は学校の友達との交流は一切なし、電話にも出ず。
 
最後の登校前日に学校に事件を話したら「もっと早く話してもらわないと困る。私(担任)が送り迎えしても良い」と言われ、さらに翌日「学校を休ませてくれ」と伝えると数日後、「なんで来れないんですか、原因は何ですか」。
 
呆れたお母さんは「そんなことわかっているじゃないですか。こんな状態で行けとは言えません。今専門のカウンセラーにみてもらうところです」とピシャリ。
 
今はその頃より少し回復して、食事は3回摂り(量は少ない)、自室から出ないということはなくなり、昼間に洗濯物を取り込んだり家事をやってくれるそうです。
 
ここまでが背景。
・・・聴いた私はため息を漏らしました。
 
こらアカン。
 
ハードボイルドが生卵に戻りました。私は過去大人のトラウマもかなり扱いましたが、最悪のエグさ。セラピーの北斗神拳TFTが一瞬たじろぎます。
 
しかし明らかに私にESさんの命運が託されています。
 
私は自分の技術力をもう一度思い出します。
リンチのようなトラウマだろうが、不登校を引き起こすストレスだろうが、本質は同じ。
記憶です。
 
その記憶を除去すれば、ストレスもトラウマも平手打ちでサヨナラできます。TFTを応用したその技術をコツコツ積み重ねてきました。
 
ESさんに今必要なことは、癒しじゃない。
いける。
少女は自ら傷口を開いて見せてくれた。
私は勇気を持って、リスクをとって攻めよう。
少女のエレジーなんざ聴きたくない。
 
私は腹を決めました。
 
先に記憶を除去すべきは、積極的に暴行した3人か、裏切ったMKです。
誰を先にすべきか考え、今回のリンチの主犯格YKからとしました。
 

YKの記憶除去

YKとEKとの最初の出会いは、HPでした。ESさんのHPに「YKだよ」とメールが来て、返信したのがきっかけです。
YKとEKは不良っぽい連中と絡んでいるので、呼び出しを断れませんでした。YKは通信制高校ですが、ちゃんと通っていないそうです。EKは普通高校にちゃんと行っています。

今回の事件以前はYKともEKともトラブルはありませんでした。ならばリンチ当日から除去してゆきます。

当日の朝、YKから「10時に来い」、EKからも「ちゃんと10時に来いよ」と1回ずつ電話がありました。YKの電話の記憶を思い出すと「こわい」。D=7。その場面は自室で、V=10、A=10(携帯のYKの声)。

ちなみにD:感情の強さ(10点満点)、V:映像の記憶の鮮明度(10点満点)、A:音声の記憶の鮮明度(10点満点)です。

映像は自室なので取り除けず、恐怖と声の記憶をトラウマのアルゴリズムで除去。

次はカラオケボックスの外でYK、EK、AM、MZの4人と話した場面。思い出すと「こわい」が7.5。V=8、A=6。恐怖はトラウマのアルゴリズム3回でゼロに。映像と音声はトラウマのアルゴリズム5回ですべてゼロに。YKに焦点を絞っています。

次はカラオケボックスの中です。詳細を聴き出します。

話はKN君のことから始まります。ESさんとKN君が会っていたことがバレ、YKは「ウチもう続けらんない。別れる」と言い出し、その場で携帯をかけ、泣きそうになりながら別れ話をしていました。

YKは「会ってたんならESのことが好きなんじゃないの、もしそうだったらまたつきあったら」と言い、ESさんは好きじゃないと否定、そんな会話が続きました。

そしてEKが「YKに謝れ」と言い出し、謝ろうとしたらさらに「土下座しろ」。ESさんは土下座。しかし怖くて声も出ていないので「聞こえない、もっと大きな声で話せ!」と口々に怒鳴り始め、始めにAMがウーロン茶をESさんにかけ、YKとEKに殴られ、EKにコーラをかけられました。

ここでMKとYMが部屋に入ってきました。

また色々言われ、またEKが殴り、「ムカつくんだったらウチのこと殴ってみろよ」とふっかけ、ESさんは「いや、先輩だから殴れません」と答えます。この会話が10回ぐらい続き、またEKがキレ、また殴られ…

ここで時間終了。YKとEKが「先輩のところ連れて行くから」と外に連れ出されました。

なんだこりゃ?EKが一番エグいじゃないか。お母さんの話を聴いて「こいつ少しは殊勝なところがある」と一瞬思った自分がバカだった。旧日本軍の鬼軍曹のようです。EKを先に記憶除去すればよかった。しかしYKも同じぐらいでしょう。

カラオケボックの中での個人の暴力行為の記憶は、時間の順番が曖昧のようなので、思い出せる行為を一つづつ挙げてもらいます。

まずYK。
最初パーで顔を5回ぐらい叩きました。それ以外では「殺すぞ」「ムカつく」という意味のことを色々言いました。

顔を殴られた場面を思い出すと、湧き出る感情は「こわい、逃げたい、痛い」。それぞれ①D=5、②D=6、③D=4です。痛覚の記憶を保持している子に久々に出会いました。
その場の映像の記憶の鮮明度はV=6、音声の記憶の鮮明度はA=5。
どんな音声かというと、無言で叩いてきたため、叩く音と、周囲のメンバーの話し声。
それにEKとYKの「自分が悪いんだぞ」という声。

この場面を思い出し、「逃げたい」を特に感じてもらいながらトラウマのアルゴリズムを
3回繰り返し、①②③すべてゼロに。ちょうどここでタイムアップ。

大事なのは、人物を分離して扱うことです(拙著「不登校セラピー」第四章”記憶除去の法則”参照)。YKならYKのみを一気に除去にかかります。トラウマのアルゴリズムも、YKのみに意識を集中させます。

ESさんは「早く良くなりたいからカウンセリングを続ける」と明言してくれ、次回へ。